世界の企業がSDGsに積極的に取り組むようになった今、それを支えるESG投資も急速に拡大しています。米国証券取引委員会(SEC)による上場企業の人的資本開示義務化などの影響もあり、日本でも「人的資本の情報開示」は企業にとって喫緊の課題です。その背景を解説し、どのように情報開示を進めるべきかをご紹介していきます。
国内外の投資家は今、企業に対して人的資本の情報開示を求めており、これを行わない企業は投資の対象から外れたり、企業価値が下がったりすることが予想されます。
人的資本の情報開示が求められている背景について、国際標準ISO30414とコーポレートガバナンス・コードの2つの視点から解説します。
ISO30414は、国際標準化機構(ISO)が人的資本に関する情報開示の基準を定めた国際的なガイドラインです。人的資本に関して、11領域(コンプライアンスと倫理、コスト、ダイバーシティ、リーダーシップ、組織文化、組織の健全性・安全性およびウェルビーイング、生産性、採用・異動・離職、スキルおよび能力、サクセッションプラン、労働力の利用可能性)を計58指標で規格化しています。
現在、ISO30414が示す人的資本の情報開示は国内外の投資家の関心を集めており、この指標に沿った人的資本の情報開示は現代を生き抜く企業にとって必要不可欠なものになりつつあります。
コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業の実効的なコーポレートガバナンス(会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み)の実現につながる主要な原則を取りまとめたもの。2015年に策定され、2018年、2021年の2回、改訂されました。2021年6月の改訂では、「人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつわかりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである」との記述が盛り込まれたことから、人的資本の情報開示の機運がさらに高まりました。
人的資本の情報開示に必要な、定量情報の開示、定性情報の開示について解説します。
人的資本の情報開示を進めるためには、大きく分けて2つの側面からアプローチする必要があります。1つは、人的資本の定量情報の開示、もう1つは、人的資本の定性情報の開示です。
経済産業省が2020年9月に発表した「人材版伊藤レポート」において、経営陣が果たすべきこととして「目指すべき将来の姿(To be)に関する定量的なKPIの設定」「現在の姿の把握、『As is-To beギャップ』の定量化」「従業員・投資家への継続的な発信・対話」を挙げていて、定量、定性の両面での情報開示を企業に求めています。
この2つの側面から人的資本の情報開示の指針と具体例を見ていきましょう。
人的資本の定量情報の開示とは、具体的にどのような内容なのでしょうか。定量情報とは数字で表せる情報を指し、人的資本の定量情報の基準としてはISO30414が示す指標が代表的なものです。具体的には、次のような項目で人的資本の定量情報を開示すべきとしています。
人的資本の情報開示について、国内の企業はどのように取り組んでいるのでしょうか。日本総研の調査によると、TOPIX100企業において人的資本情報の開示が見られたのは100社中82社でした。多くの企業が人的資本情報の開示に取り組んでおり、定量的な情報開示の具体例としては次のような企業が挙げられます。
人的資本の定性情報開示とはどのようなものなのでしょうか。定性情報とは数値で表せない情報を指し、人的資本の定性情報開示としては、人材戦略のレポートや人的資本に関するポリシーの開示などが挙げられます。2021年8月20日に発表された「投資家フォーラム第27・28回会合報告書」では「人的資本に関する開示については、ISO30414などで標準化されている項目を除けば、数値化や横比較可能性は投資家にとって必ずしも最優先の要望事項ではない。取り組みの進展・進捗、実践からの気づき、学び、それらを活かした改善などを継続的に把握することができれば、投資家にとって非常に有用だ」とあり、数値だけにとらわれない情報開示が必要とされています。
人的資本の定性情報開示は、定量情報開示に比べて進捗が遅れているのが現状ですが、いくつかの企業では先進的な取り組みも見られます。人的資本の定性情報開示の具体例についてご紹介します。
こんな課題で悩んではいませんか?経営企画担当者からよく寄せられるお悩みにお答えします。
「誰のための、何のための情報開示か」が異なります。採用の文脈においては、学生や転職希望者向けの、採用にエントリーしてもらうため、あるいは入社後にカルチャーギャップを起こさないための情報開示です。ですから、「企業の理念を伝えて共感してもらう」「社員が活躍していることを伝え、自分が入社した場合も活躍できるイメージを持ってもらう」「企業文化を伝えて自分にマッチした会社だと感じてもらう」などを目的としたコンテンツが必要になります。
対して、人的資本の定性情報開示は、株主や投資家のための、投資先として評価を高めてもらうためのものです。このためには、人的資本に関する取り組みの進展・進捗、実践からの気づき、学び、それらを活かした改善などを継続的に把握できる情報が必要とされます。
同じく、「誰のための、何のための記事か」が異なります。ブランディングは採用やESGにも関係が深いものですが、最も重要な役割は自社ブランドに対して顧客のロイヤリティや共感性を最大限に高めることで、独自の付加価値を創造し「競合他社との差別化を実現する」ことにあります。
対して、人的資本の情報開示では投資家を念頭に置き、投資の選定材料となるような有益な情報を継続的に公開していく必要があります。
人的資本の観点に立てば、社員と企業がパーパスに向かって成長し続けている、ということを情報開示していく必要があります。しかし、社員の働き方や生き方と、企業のパーパスとをリンクさせたストーリーを描き、情報をまとめあげることは簡単ではありません。人的資本の定性情報開示を行うときには、的確な方針決定、企画立案、制作ディレクションが欠かせません。この部分でプロの力を借りることも一案です。
20年以上にわたり、企業の情報発信をご支援してきた株式会社グリーゼ。人的資本の定性情報開示の制作実績も数多くあります。今までの実績・経験から、ESG視点、人的資本の定性情報開示の視点で、コンサルティング・企画・制作を行います。
A社様の事例では、グリーゼがステークホルダー向けのオウンドメディア企画からご支援し、企画から取材・制作までを担当しました。取材の前にはご担当者様と編集会議を実施。取材後には目的に合わせた編集作業を行って、コンテンツの精度を高めました。
採用ではなく、企業価値を高めるコンテンツとしてインタビュー記事を制作しました。グリーゼの経験豊富なライターが取材を行い、情報を引き出して企業と社員の魅力が伝わるコンテンツを制作しました。
企業のパーパスに沿ったコンテンツとして、社員インタビューを企画。人的資本の情報開示につながる記事にするため、構成を練り上げました。最終的には社員の成長と企業の成長がリンクするコンテンツができあがり、インナー/アウターブランディングにも役立ちました。
人的資本の定性情報開示を行うために、まず必要なものとは?
明文化されたパーパスは必須です。さらには、人的資本の観点で「誰の、どのような価値を、どのようにして生み出すのか」という中長期的なジャーニーを描いたものがあればよりよいでしょう。
人的資本の定性情報開示は、投資家向け以外にどんなメリットがありますか?
人的資本の定性情報開示は、採用、インナー・アウターブランディングにも好影響が見込めます。企業と社員が同じパーパスに向かい成長を続けているというストーリーを継続的に開示していくことが望ましいです。
他社はどのくらい取り組んでいるのでしょうか?
82%の企業において、人的資本に関する情報開示があるというデータがあります(日本総研)。ただし、定性情報開示を行う企業はまだまだ少ないのが現状です。
コンサルティング
御社の人的資本の情報開示に関する課題、進捗状況などをお聞きし、情報開示を進める方向性を定めます。
方針決定・企画立案
人的資本の情報開示の方針を決定し、それに沿った企画を立案します。場合によっては、人的資本の情報開示に関する御社向けの勉強会なども実施します。
コンテンツ制作
弊社がディレクションと制作を担当し、方針に沿ったコンテンツ制作を行います。取材、撮影、執筆、デザインなどをトータルでお任せいただけます。
分析・改善
ご希望により、開示した情報のアクセス分析を行い、次のコンテンツ制作や改善につなげます。