
日頃からセールスフォース社とお付き合いをしていて、「本当にすごい会社だなぁ」と思う場面が多々あります。
今回はその中のひとつ「セールスフォース社のブランディング戦略」について、勝手に熱く語りたいと思います。
※本記事は、セールスフォース社とは一切関係なく、個人の解釈で書いています。ご了承ください。
私が、彼らの「ブランディング戦略」に気づいたのは、あるマーケティングイベントがきっかけでした。
内容的には、よくあるマーケティングイベント。基調講演があり、各種セッションがあり、ブースでは様々なツールのデモが行われ・・・というものだったのですが・・・
「あれ? 廊下を曲がるところにキャンプ道具一式がレイアウトされている??」
それも結構本格的なもので、ハンモックまで吊るされていました。
また、そのあと参加したセッションでは、登壇者の背景に、森や川や山の映像が映し出されていました。
なぜ、世界シェアNo.1の顧客関係管理(CRM)ソリューションの会社が、森?
環境問題に取り組んでいることを、アピールしているわけでもなさそうだし。
この世界観は一体何なんだ?彼らは、一体何を伝えようとしているんだ?
とても気になった私は、帰宅後ネットで調べてみました。
検索の結果、見つけたのがこちらのサイトです。
▼制作の舞台裏 - Salesforce の新しい広告キャンペーンができるまで
https://www.salesforce.com/jp/blog/2017/06/behind-the-scenes.html
あの森や川や山は、アメリカの国立公園だったんですね~。
そして、アメリカの国立公園のミッションである
「壮大な自然資源をあらゆる人に等しく開放することによって、教育を促進し、インスピレーションを与えること」と、
セールスフォース社のミッションである
「新たな道を切り拓こうとする人を支援し、すぐれた成果を出すための手助けをするとともに、より良い生活を送るための案内役」
とが共通しているということから、国立公園をモチーフにした世界観がうまれたんですね~。
まるで、「地球外生命が存在する可能性が高い惑星」と、 「すべての人の可能性を、高く大きく広げていくお手伝いをする」という企業ミッションの共通点から、社名を「グリーゼ」にした弊社みたいではありませんか(笑)
しかし、私がこの記事を読んで一番「おお!」と思ったのは、国立公園の話ではありません。
私が「おお!」と思ったのは、この世界観のために作られた
「Blaze Your Trail(新たな道を切り拓こう)」
というタグラインです。
タグラインとは、キャッチコピーに似ていますが、広告的な役割だけではなく、企業の「志」「理念」「スピリット(精神)」を宣言するという役割も担っています。
Apple社の
「Think different.」
を覚えていますか?
この言葉は、広告キャンペーンのキャッチコピーとしても大々的に扱われましたが、「Appleとは、こういう会社なんだ!」という「企業のあり方」を高らかに宣言したものでもありました。
この広告を見た瞬間に胸を打たれた人、Apple社が大好きになった人がたくさんいると思います。
そして、Apple社の社員も、この言葉を口にするとき、Apple社の一員であることを誇りに思ったことでしょう。
それが、タグラインです。
では、なぜ私が
「Blaze Your Trail(新たな道を切り拓こう)」
というタグラインを見て「おお!」と思ったのかを、お話ししましょう。
ここで、「セールスフォース社は、何を売っているのか?」を一緒に考えてみましょう。
セールスフォース社のWebサイトの「製品一覧」ページを見ると、
・営業支援>Sales Cloud
・カスタマーサービス>Service Cloud
・マーケティング>Marketing Cloud・・・
と記載されています。
これが、「目に見える売り物」ですね。
これらは、ひとことで言うと「ツール」です。
皆さんは、「ツール」を導入するとき、どんな基準で選定しますか?
「価格」を比べたり、「機能」を比べたりしますよね。
つまり、「ツール」を売っている限り、競合と「価格競争」「機能競争」をし続けることになります。
競合と「価格競争」「機能競争」をし続けるのは不毛なので、セールスフォース社は「カスタマーサクセス」を売るようになりました。
「俺たちが売っているのはツールではない。お客様の成功なんだ」
というわけです。
老舗旅館「陣屋」の経営を立て直したストーリーを、CMなどで目にした方も多いのではないでしょうか。
「モノ売りからコト売りへの転換」は、大きな成果があったと思われます。
セールスフォース社は、急成長していきました。
ところが、成果がありすぎて、どんどんいろんな会社に真似されちゃいましたね。
いま、ちょっとした会社なら(特にIT企業では)、「カスタマーサクセス部」がありますよね。
つまり、「コト売り」でも消耗戦に突入してしまったわけです。
では、セールスフォース社が消耗戦から抜け出すために考えた、新しい「売り物」は、何だと思いますか?
私はそれが、企業の「あり方」そのものなのではないかと、考えています。
Apple社の
「Think different.」
を思い出してください。
これは、Apple社の「あり方」=「志」「理念」「スピリット(精神)」を宣言しているタグラインです。
このタグラインに胸を打たれた人、つまりApple社のファンたち(≒ Macintoshシリーズの愛用者たち)は、「MACer(マッカー/マカ―)」と呼ばれています。
彼らは「MACer」と呼ばれることをとても誇りに思っており、彼らにとってApple社の製品を使うことは、重要な自己表現の手段です。
彼らは、Apple社の共感者であり、信者であり、同じスピリット(精神)を共有する「チームの一員」なのです。
これと同じことが、セールスフォース社にも起こっていると、私は考えています。
「Blaze Your Trail(新たな道を切り拓こう)」
というタグラインの元に集まった、セールスフォース社の社員やユーザーは、
「Trailblazer(開拓者)」
と呼ばれています。
セールスフォースコミュニティの名前も
「Trailblazer(開拓者)」
です。
セールスフォース社のユーザー会の方たちが着るお揃いのトレーナーなどには、
「Trailblazer(開拓者)」
という言葉が、誇らしげに書かれています。
彼らは「Trailblazer(開拓者)」と呼ばれることをとても誇りに思っており、彼らにとってセールスフォース社の製品を使うことは、重要な自己表現の手段なのです。
ですから、競合他社のツールがどんなに安くても、どんなに高機能でも、どんなにカスタマーサクセスのためにフォローしてくれたとしても、「Trailblazer(開拓者)」たちは、容易にはなびきません。
なぜなら彼らは、セールスフォース社の共感者であり、信者であり、同じスピリット(精神)を共有する「チームの一員」だからです。
彼らは、転職してもセールスフォース社の製品を使い続け、友人知人にもセールスフォース社の製品をお勧めし、このチームが共有している「志」「理念」「スピリット(精神)」がいかに素晴らしいかを、熱く語ってくれることでしょう。
セールスフォース社がこの世界観を生み出し、広め、浸透させるために、莫大な費用をかけている理由がよくわかります。
広告は一過性のものですが、心に刻まれた「大好き」はそうそう変わるものではないからです。(Apple社を大好きな人が、どんなに安くてもどんなに高機能でも、iPhoneを他社のスマートフォンに替えようとは思わないように!)
そして、このセールスフォース社がとった戦略は、私たちも考えていかなければならないことではないかと思っています。
私は、ずいぶん長いこと「モノ売りからコト売りへの転換」ということを、いろいろなセミナーで話してきました。
しかし最近、お客様はだんだんと「コト売り」にも魅力を感じなくなってきているように感じています。
いまお客様の心を動かすのは、企業の「志」「理念」「スピリット(精神)」はないでしょうか。
「私たちは、こんな存在でありたいんだ」と宣言すること。
つまり「企業のありたい姿」をしっかりと言葉にして伝えている姿勢に共感したとき、お客様はその会社を選び、その会社のファンになるのではないかと思います。
あなたの会社は、お客様にとって、あるいは社会にとって、どんな存在でありたいですか?
それを、短くてわかりやすい言葉(タグライン)で、力強く宣言することができますか?