こんにちは。株式会社グリーゼ 代表取締役 江島です。
「企業たるもの、公式サイト以外にオウンドメディアも持つべきである」
こんな常識(?)が、いつの間にかデジタルマーケティングの世界に広まっているような気がします。
このコラムが掲載されている「コンテンツマーケティングの成功法則!」も、株式会社グリーゼのオウンドメディアです。
でも・・・
「オウンドメディアって、本当に必要なんですかね?」
と、心の中でこっそり思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか?
アンデルセン童話「裸の王さま」で、大人たちが、「みんなが王さまの衣装を褒めたたえているから、"王さま、裸じゃね?"とは言えなかった」ように、現代のマーケッターの中にも、「みんながオウンドメディア重要って言ってるから、"要らなくね?"って言えない」という方が、一定数いらっしゃるような気がします。
なぜそんな気がするかというと、実は私も、"(一部の企業にとっては)要らなくね?"と思っているからです(笑)
そこで、今回は、オウンドメディアの5つの役割について解説しつつ、
「本当に、"企業たるもの、公式サイト以外にオウンドメディアも持つべき"なのかどうか?」
を考察したいと思います
1:そもそもオウンドメディアとは?
2:オウンドメディアと公式サイトは、なぜ別々に存在するのか?
3:オウンドメディアの役割① 集客
4:オウンドメディアの役割② 見込み客の獲得
5:オウンドメディアの役割③ 見込み客の育成
6:オウンドメディアの役割④ アウターブランディング
7:オウンドメディアの役割⑤ インナーブランディング
8:まとめ
そもそもオウンドメディアとは、一体何でしょうか?
「オウンドメディア」という言葉は、「広義」と「狭義」の2つの意味を持っています。
読んで字のごとく、「自社が持っているメディア(情報発信の場)」という意味です。
この場合、「オウンドメディア」という言葉には、「自社で運営している公式サイト」「自社で運営しているブログ」「自社で運営しているSNS」などのすべてを含んでいます。
以下の2つと合わせて、「トリプルメディア」と呼ばれます。
・ペイドメディア(Paid Media/費用を払うことで情報発信することができる場/記事広告など)
・アーンドメディア(Earned Media/消費者やユーザーが情報発信の主体となる場/拡散されたTwitterなど)
各々の特徴を簡単に表にまとめたものが、下記になります。
自社で運営するブログサイトやウェブマガジンを指します。
本記事では、こちらの意味で「オウンドメディア」という言葉を使います。
では、なぜ企業は、既に「公式サイト」という「自社で運営するメディア」を持っているのにも関わらず、「オウンドメディア」というもうひとつの「自社で運営するメディア」も持つようになってきたのでしょうか?
Googleトレンドで調べてみると、日本では2010年頃から「オウンドメディア」という言葉が認知され始めたということがわかります。
この頃に、デジタルマーケティングの世界で、何が起こったのでしょうか?
答えは、「購買行動の変化」です。
「デジタルネイティブ世代」(諸説ありますが、ここでは"学生時代からインターネットのある生活環境の中で育ってきた世代"と定義します。日本では、1980年前後生まれ以降と言われています)がビジネスの中核を担うようになってきたことにより、商品やサービスを購入・導入するプロセスに変化が起こりました。
>>>パターン①
商品やサービスを購入・導入する場合、以前からつきあいのある営業に声をかけて説明を聞き、品質や仕様の確認を行う。
>>>パターン②
展示会等で情報収集し、カタログなどで品質や仕様の確認を行ったあと、Webサイトから問い合わせをする。
・・・つまり、【Before】(BtoB)の世界では、購買プロセスの中にWebサイトが登場するのは、最後の最後でした。(パターン①の場合には、最後まで登場しない可能性もあります。)
それに対し、【After】(BtoB)の世界では、「商品やサービスを購入・導入しよう」と決めるはるか前に、見込み客が、自社・自部署の課題を解決するための情報をインターネットで検索するところから購買プロセスが始まります。
課題解決のための情報収集の過程で"たまたま出会った"企業・商品・サービスに興味を持ち、さらに情報収集を重ねるうちに、購入・導入を検討するようになっていくのです。
・・・つまり、【After】(BtoB)の世界では、購買プロセスの一番初め(まだ購入・導入しようと全く思っていない、ただの情報収集段階)からWebサイトが登場します。
【出展】株式会社グリーゼ「BtoB製品購入プロセスにおける Webマーケティングの重要性」調査
(2017年6月)https://gliese.co.jp/success/report/0002.html
【After】(BtoB)の世界で、もし企業が課題解決型の情報発信をしていなかったら、どうなるでしょうか?
見込み客は、課題解決型の情報発信をしている競合企業と「先に出会い」、「先にその競合企業の商品・サービスについて興味関心を持ってしまう」ことになるかもしれません。
そこで、各企業がこぞって、課題解決型の情報発信もしていこうということになったわけです。
そこで登場したのが、「(狭義の)オウンドメディア」です。
ではなぜ、課題解決型の情報発信を公式サイト内で行うのではなく、別メディアとして立ち上げることが多いのでしょうか?
その理由は、課題解決型の情報を必要としている見込み客は、まだその情報を発信している企業のことは全く知らない、あるいはまったく興味を持っていない状態だからです。
そんな状態の見込み客が、何かの課題を解決したくて検索をしたときに、企業名が前面に出た公式サイトに出会ってしまったら、「なあんだ、企業サイトか」と、かえって引いてしまう可能性があります。
そこで、公式サイトとは別の、企業色を極力薄めたサイトを用意して、課題解決型の情報発信はそちらで行うことが通例になっています。
ですから、オウンドメディアの中には、どの企業が運営しているのか、ぱっと見ただけではわからないものがたくさんあります。
こちらは、株式会社ラクスのオウンドメディアですが、パッと見ただけではどこが運営しているかわからないのではないかと思います。
▼「出会い」の価値を探究し、ビジネスネットワークを活用した新たな可能性を探るメディア「Business Network Lab」
こちらは、Sansan株式会社のオウンドメディアです。こちらも、パッと見ただけでは、どこが運営しているのかわからないのではないかと思います。
次に、オウンドメディアの5つの役割について、解説しましょう。
集客
① Cookie(クッキー 訪問者情報の一時的な保存)の取得
② 認知(サイトに訪問してもらうことで、会社や商品・サービスを知ってもらう)
【主なKPI(Key Performance Indicator成功指標)】
月間PV(ページビュー 閲覧ページ数)
月間UU(ユニークユーザー 訪問者数)
STEP1:見込み客が課題解決のために検索しているであろうキーワードを選定
↓
STEP2:上記キーワードでSEO対策を行った記事を、オウンドメディアに掲載
>>>「YES! 必要ないね」 になるのはどんなとき?
PVやUUのKPIを達成しただけで満足。その後のシクミが用意されていないとき
>>>「NO! 必要です」 になるのはどんなとき?
集客したあとのシクミが、ちゃんと用意されているとき
見込み客の獲得(リードジェネレーション)
見込み客のメールアドレスの収集
月間メールアドレス獲得数
STEP1:見込み客が「メールアドレスを落としてでも欲しい」と思うような情報を用意(例:無料セミナー・調査レポート等)
↓
STEP2:見込み客が課題解決のために検索しているであろうキーワードを選定
↓
STEP3:上記キーワードでSEO対策を行った記事を、オウンドメディアに掲載
↓
STEP4:STEP1のセミナー申し込みページや資料ダウンロードページへ誘導(あらかじめ、STEP3のページからの導線を準備)
>>>「YES! 必要ないね」 になるのはどんなとき?
メールアドレスを収集しただけで満足。その後のシクミが用意されていないとき
>>>「NO! 必要です」 になるのはどんなとき?
メールアドレスを収集したあとのシクミが、ちゃんと用意されているとき
見込み客の育成(リードナーチャリング)
見込み客の購買意欲の醸成
メールからオウンドメディアの記事への誘導数(何人を誘導できたか)
メールからオウンドメディアの記事への誘導回数(1人が何回記事を読みに行っているか)
メールからオウンドメディアの記事へ誘導した後の滞在時間(ちゃんと記事を読んでくれているか)
STEP1:所有しているメールアドレスに対して、メールを配信
↓
STEP2:メールからオウンドメディアの記事に誘導
>>>「YES! 必要ないね」 になるのはどんなとき?
オウンドメディアの記事に誘導しただけで満足。その後のシクミが用意されていないとき
>>>「NO! 必要です」 になるのはどんなとき?
オウンドメディアの記事に誘導したあとのシクミが、ちゃんと用意されているとき
以上3つが、「購買行動の変化」に伴って生まれたオウンドメディアの役割です。
加えて、下記のような目的でオウンドメディアを運営する企業も増えてきました。
社外向けのブランディング
顧客・見込み客にとっての企業価値(共感や信頼、憧れ等)を高める
リピート率
継続率
客単価
受注率
アンケートによるDWB(Definitely Would Buy「絶対に買いたい」という消費者の購入意向)調査結果
アンケートによるNPS(Net Promoter Score「親しい知人や友人にお勧めしたい」という消費者の意向)調査結果
STEP1:ブランドポリシー(企業がブランドとしてどう認知されたいか?)を定義
↓
STEP2:ブランドポリシーに合致した記事をオウンドメディアに継続的に掲載
>>>「YES! 必要ないね」 になるのはどんなとき?
アウターブランディングの目的やブランドの定義が明確になっていない、あるいはオウンドメディアに関わる人々に周知徹底されない状態で情報発信しているとき
なんとなくカッコイイ記事を掲載しただけで満足して、効果検証がされていないとき
>>>「NO! 必要です」 になるのはどんなとき?
定期的に効果検証を行い、目指していた成果が得られるように改善することができているとき
社内向けのブランディング
(アウターブランディングと兼ねている場合が多い)
社員にとっての企業価値(共感や信頼、誇り等)を高める
企業のビジョン・ミッションに対する理解度を高める
(→結果的に業績向上につながる)
リピート率
継続率
客単価
受注率
アンケートによるeNPS(Employee Net Promoter Score「自分の会社を、親しい知人や友人にお勧めたい」という社員の意向)調査結果
アンケートによるES(Employee Satisfaction 従業員満足度)調査結果
STEP1: 企業の「WHY(存在意義)」にあたる企業理念(=ミッション・ビジョン)と、「WHO(何者か)」にあたる行動規範(=バリュー)を定義
↓
STEP2:上記に合致した社員向け記事をオウンドメディアに継続的に掲載
>>>「YES! 必要ないね」 になるのはどんなとき?
インナーブランディングの目的やブランドの定義が明確になっていない、あるいはオウンドメディアに関わる人々に周知徹底されない状態で情報発信しているとき
なんとなくカッコイイ記事を掲載しただけで満足して、効果検証がされていないとき
>>>「NO! 必要です」 になるのはどんなとき?
定期的に効果検証を行い、目指していた成果が得られるように改善することができているとき
・・・いかがでしたか?
役割①~⑤でご紹介したように、明確な目的や成功指標を定義した上で運営すれば、オウンドメディアは非常に使い勝手のよいマーケティング/ブランディングツールになります。
逆に、明確な目的や成功指標を定義しないまま、「ヨソがやってるから、ウチもオウンドメディアをやらないと」でナントナク立ち上げてしまうと、「壮大な金食い虫」になってしまう可能性があります。
「うちのオウンドメディアは、ただの金食い虫になっているのではないか?」と感じたら、思い切って"要らなくね?"と声を上げる、あるいは"もう一度イチから見直しませんか?"と提言することも、マーケッターに求められる大切な役割のひとつではないでしょうか。
「企業たるもの、公式サイト以外にオウンドメディアも持つべきである」
というナゾの常識(?)をうのみにせず、ぜひ限られた資源をどこに配分すべきなのかをクールに考えてみてください。
▼2020年6月23日に開催したプライベートセミナー「オウンドメディアは、なぜ必要なのか?」の動画も併せてごらんください。
※音声なし 音楽あり 4分18秒